アフリカ美術には、大きく分けて、マスク、立像、道具、装身具、武具、楽器、貨幣、それにテキスタイルがあります。 マスクには主に、儀礼に使われたものですが、芸能面も存在します。立像は祠に置かれたりする祈祷用のものや祖先像、王宮などの飾り、玩具などです。道具は多彩で、イス、枕、ベッド、テラコッタのポット、櫛、ひしゃくやスプーンなどの食器、祈祷道具、金などのはかりとウエート、ゲームボードや墓標などがあります。装身具はネックレス、指輪、腕輪、足輪など。武具はナイフや盾。楽器はドラム、ホルン、指ピアノやハープなど。貨幣の形も民族によって独特の形と大きさがあります。テキスタイルもそれぞれの民族特有のものがあります。
その中で、特に独自性がありしかも変化に富んでいるのはマスクです。アフリカのマスクの魅力は何といっても、バラエティーに富んでいることと、その豊かなイマジネーションにあります。動物や人をモチーフにしていると思われますが、世界のどこにもない、おもしろい形態が限りなく作られています。美術の歴史を見ると、ほとんどの地域において、いつも主流は写実的なリアリズムでした。15000年前にクロマニヨン人が描いた、あのラスコーの壁画ですらすでにリアリズムです。画材や技法の変遷、多少のデフォルメ、変化はあっても、アフリカのマスクほど奇想天外な形が多く作られた地域はほかにはありません。
アルジェリアの南にある紀元前4000年のタッシリナジェールの岸壁画には仮面を付けた人物の像が描かれています。そこにはすでに、コートジボワールのウォベかゲレの人々が用いているようなマスクが見られます。このマスクにより壁画の主がウォベかゲレの祖先であるかどうかの確証はありませんが、昔、サハラ砂漠が緑の草原であったころ、すでにこのような仮面が存在していたという証拠であり、それが現代につながっているとも考えられます。朽ちやすい木製であったことと厳しい気候により6000年以前の証拠はこの壁画に頼るほかありませんが、現在の仮面の中にこれと酷似するものがいくつか存在するということは、6000年以上の間、アミニズム信仰により神や祖先とのコミュニケーションの代役として、その願いやイマジネーションが数限りない仮面の種類を創りあげていったものと想像できます。
アフリカでは、精神性を重視するせいか、写実的なことやシンメトリックなことが「美」ではなく、大きくデフォルメして精神を表現したものや、歪んだものがリアリスティックであり、美しいと認識されています。これは日本人が美しいと思う、侘茶的な感覚と共通しています。アフリカで日常の道具である、イスや枕を見ても、その道具について、民族のさまざまな考え方があり、形も千差万別です。また、同じ民族の同じ形のイスであっても、一つとして同じ形はなくしかも人の手で作られた暖かさや温もりがあり、いわば表情があるのです。